名古屋地方裁判所 昭和54年(行ウ)27号 判決 1981年3月23日
愛知県東加茂郡足助町大字中之御所字久井戸一一番地四
原告
横地臣
右訴訟代理人弁護士
佐野公信
被告
国税不服審判所長 岡田辰雄
右指定代理人
横山静
同
西村重隆
同
平松輝治
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
(原告)
一 被告が昭和五四年六月一四日付でした、原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
主文同旨。
第二主張
請求要因
一 原告は、岡崎税務署長より昭和五二年四月七日付で昭和四八年分所得税の決定処分及び重課算税の賦課決定処分を受けた。
二 原告は、右処分を不服として審査請求をなしたところ、被告は昭和五四年六月一四日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、同裁決書の謄本は同年八月三日に送達され、原告の内妻訴外横山まさ(以下「訴外まさ」という。)がこれを受領した。
原告は、同年八月三、四日と他に出張していて、本件裁決があったことを現実に知ったのは、同年八月五日である。
ところで、行政事件訴訟法一四条一項によれば、「取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から三箇月以内に提起しなければならない」と規定されているが、右「知った日」とは、書類の交付その他の方法により、処分又は裁決の存在を現実に知った日を指すものと解すべきである。(最高裁昭和二七年一一月二〇日第一小法廷判決、民集六巻一〇号一、〇三八頁)。
従って、昭和五四年一一月三日に提起した本件訴えは法定の出訴期間を徒過しておらず、適法である。
三 本件裁決には、原告の昭和四八年分業所得中仕入金額を過少に売上金額を過大に認定した違法があるので、取消されるべきである。
(被告)
本案前の主張
一 本件裁決書謄本が昭和五四年八月三日原告宅(東加茂郡足助町大字足助字石橋三七)へ送達された際に押捺された「配達証明郵便物」受領印(乙第二号証)は、原告が常に携帯していたシャチハタ印であることなどからすると、右謄本は送達日に原告自身が受取り、その日に了知したものというべきものであるが、仮に、原告主張のとおり、受領者が訴外まさであり、原告が本件裁決のあったことを現実に知った日が昭和五四年八月五日であるとしても、訴外まさは、原告と重婚的内縁関係にあったもので、原告と約三〇年間同棲している事実上の妻であり、平素家事一切の切り盛りは勿論、原告不在の折は、原告の実印の管理も任されていたことなどを勘案すれば、訴外まさは原告を代理する権限が付与されていたものというべきである。
そうすると、訴外まさが本件裁決書を受取った日に原告自身が本件裁決のあったことを知ったものというべきである。
二 仮に、訴外まさに代理権がなかったとしても、次の理由から、原告が本件裁決のあったことを知った日は昭和五四年八月三日というべきである。
すなわち、裁決があったことを知った日とは、本人がそのことを現実に知った日を指すばかりでなく、そのことを事実上了知し得べき状態に置かれた場合も含まれると解すべきである。
これを、本件について言えば、本件裁決書謄本を訴外まさが受領した事実は、原告が偶々当日不在であっても原告は、事実上予知しうべき状態に置かれていたと言って差し支えない。
けだし、裁決があったことを知った日をあくまで本人が現実に知った日を意味すると解すならば、処分行政庁が処分の相手方に対し、処分書の送達等当該処分を了知せしめるに必要な措置を尽したにかかわらず、処分の相手方の知、不知という偶然的な事由により、また、処分行政庁の確知しえない処分の相手方の内心的認識にかかる事実の有無によって、出訴期間が左右され、甚だ不都合を招くからである。
三 以上の次第で、本件訴えは法定の出訴期間を徒過した違法な訴えであるから却下されるべきである。
第三証拠
(原告)
一 原告本人尋問の結果を援用。
二 乙号各証の成立は認める。
(被告)
乙第一号証、第二号証の一・二、第三号証を提出。
理由
一 先ず、職権を以って本件訴えが法定の出訴期間内に提起されたか否かについて判断する。
1 原告は、岡崎税務署長より昭和五二年四月七日付でなされた昭和四八年所得税の決定処分及び重加算税の賦課決定処分を不服として、審査請求をなしたところ、被告は昭和五四年六月一四日付で右審査請求を棄却する旨の本件裁決をなし、本件裁決書謄本が同年八月三日原告方(後記のとおり、肩書住所地ではなく、東加茂郡足助町大字足助字石橋三七番地)に送達されたことは当事者間に争いがない。
2 つぎに、成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一・二、第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和二〇年二月二三日訴外横地金子と婚因し、肩書住所地(東加茂郡足助町大字中之御所字久井戸一一番四)において結婚生活を営み、同訴外人との間に三子を儲けたが、昭和二八年頃妻子と別居し、その頃から東加茂郡足助町大字足助字石橋三七番地に借家して、訴外まさと同棲するようになり、現在に至っていること、右肩書住所地には訴外横地金子と長男夫婦が居住しており、原告と妻子とは殆んど往来していないこと、原告は個人で木材業を営んでいる者であるが、昭和五四年八月三、四日は流木の調査のため、静岡県天竜方面に出張し、同月五日に帰宅したこと、本件裁決書謄本は同月三日に訴外まさが受領し、原告は右帰宅した同月五日に右謄本が送達されていることを知ったこと、訴外まさは、原告の事実上の妻(内妻)として約三〇年間同棲し、家事一切の処理はもとより、原告の実印の保管、原告宛の郵便物の受領等を原告から委ねられていたこと、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。
右事実によれば、原告は訴外まさに対し、本件裁決書謄本が送達された昭和五〇年八月当時、原告宛の郵便物を受領する代理権を得ていたことは明らかであり、右権限を有する訴外まさが本件裁決書謄本を受領したというのであるから、原告は、社会通念上本件裁決があったことを知り得べき状態に置かれたものというべく、これは、原告が本件裁決のあったことを知った場合と同一視できるから、原告は昭和五四年八月三日に本件裁決があったことを知ったものというべきである(最高裁第三小法廷昭和三五年一一月二二日判決、民集一四巻一三号二、八四〇頁参照)。
3 ところで、行政事件訴訟法第一四条一項、四項を適用して出訴期間を計算する場合には、裁決のあったことを知った日を初日として、これを期間に算入して計算するのが相当であるから、本件については、昭和五四年一一月二日の経過をもって法定の出訴期間が満了したことになる。
本件訴えが昭和五四年一一月三日に提起されたことは本件記録上明らかであるから、本件訴えは出訴期間を徒過して提起されたものというべきである。
二 よって、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本武 裁判官 浜崎浩一 裁判官 山名学)